2012年6月24日日曜日

どさくさに紛れて行われた原子力基本法の改正の本当の危険(後編)

結果をすぐさま知りたい人は、一気に最後に行って下さい!


[原子力規制委員会設置法案] (衆議院)


この法案から、原子力基本法に関する部分を抜き出します。
今回、この法案のそれ以外の部分の問題点については、置いておきます。
決して何も問題が無いと言う事ではありません。

問題の部分は、附則の十二条にあります。

(原子力基本法の一部改正)
第十二条 原子力基本法(昭和三十年法律第百八十六号)の一部を次のように改正する。
  
第一条中「利用」の下に「(以下「原子力利用」という。)」を加える。
  第二条中「原子力の研究、開発及び利用」を「原子力利用」に改め、同条に次の一項を加える。
 2 前項の安全の確保については、確立された国際的な基準を踏まえ、国民の生命、健康及び財産の保護、環境の保全並びに我が国の安全保障に資することを目的として、行うものとする。
  第一章の次に次の二章を加える。
    第一章の二 原子力規制委員会
 第三条の二 原子力利用における安全の確保を図るため、別に法律で定めるところにより、環境省の外局として、原子力規制委員会を置く。
    第一章の三 原子力防災会議
  (設置)
 第三条の三 内閣に、原子力防災会議(以下「会議」という。)を置く。
  (所掌事務)
 第三条の四 会議は、次に掲げる事務をつかさどる。
  一 原子力災害対策指針(原子力災害対策特別措置法(平成十一年法律第百五十六号)第六条の二第一項に規定する原子力災害対策指針をいう。)に基づく施策の実施の推進その他の原子力事故(原子炉の運転等(原子力損害の賠償に関する法律(昭和三十六年法律第百四十七号)第二条第一項に規定する原子炉の運転等をいう。)に起因する事故をいう。次号において同じ。)が発生した場合に備えた政府の総合的な取組を確保するための施策の実施の推進
  二 原子力事故が発生した場合において多数の関係者による長期にわたる総合的な取組が必要となる施策の実施の推進
  (組織)
 第三条の五 会議は、議長、副議長及び議員をもつて組織する。
 2 議長は、内閣総理大臣をもつて充てる。
 3 副議長は、内閣官房長官、環境大臣、内閣官房長官及び環境大臣以外の国務大臣のうちから内閣総理大臣が指名する者並びに原子力規制委員会委員長をもつて充てる。
 4 議員は、次に掲げる者をもつて充てる。
  一 議長及び副議長以外の全ての国務大臣並びに内閣危機管理監
  二 内閣官房副長官、環境副大臣若しくは関係府省の副大臣、環境大臣政務官若しくは関係府省の大臣政務官又は国務大臣以外の関係行政機関の長のうちから、内閣総理大臣が任命する者
  (事務局)
 第三条の六 会議に、その事務を処理させるため、事務局を置く。
 2 事務局に、事務局長その他の職員を置く。
 3 事務局長は、環境大臣をもつて充てる。
 4 事務局長は、議長の命を受け、命を受けた内閣官房副長官補及び内閣府設置法(平成十一年法律第八十九号)第四条第三項に規定する事務を分担管理する大臣たる内閣総理大臣の協力を得て、局務を掌理する。
  (政令への委任)
 第三条の七 この法律に定めるもののほか、会議に関し必要な事項は、政令で定める。
  第二章の章名を次のように改める。
    第二章 原子力委員会
  第四条中「原子力の研究、開発及び利用」を「原子力利用」に改め、「及び原子力安全委員会」を削る。
  第五条第一項中「原子力の研究、開発及び利用」を「原子力利用」に、「安全の確保のための規制の実施に関する事項」を「安全の確保のうちその実施に関するもの」に改め、同条第二項を削る。
  第六条中「及び原子力安全委員会」を削る。
 (原子力委員会及び原子力安全委員会設置法の一部改正)
第十三条 原子力委員会及び原子力安全委員会設置法(昭和三十年法律第百八十八号)の一部を次のように改正する。
  題名を次のように改める。
    原子力委員会設置法
  目次を次のように改める。
 目次
  第一章 総則(第一条)
  第二章 所掌事務及び組織(第二条―第十二条)
  第三章 削除
  第四章 委員会と関係行政機関等との関係(第二十三条―第二十六条)
  第五章 補則(第二十七条)
  附則
  第一条中「及び原子力安全委員会」を「(以下「委員会」という。)」に改める。
  第二章の章名を次のように改める。
    第二章 所掌事務及び組織
  第二条中「原子力委員会(以下この章において「委員会」という。)」を「委員会」に改め、「掲げる事項」の下に「(安全の確保のうちその実施に関するものを除く。)」を加え、同条第四号及び第八号中「(原子力安全委員会の所掌に属するものを除く。)」を削る。
  第三章を次のように改める。
    第三章 削除
 第十三条から第二十二条まで 削除
  第四章の章名を次のように改める。
    第四章 委員会と関係行政機関等との関係
  第二十四条中「原子力委員会又は原子力安全委員会」を「委員会」に、「第二条各号又は第十三条第一項各号に掲げる」を「その」に改め、「、それぞれ」を削る。
  第二十五条中「原子力委員会又は原子力安全委員会」を「委員会」に改める。
  第二十六条を削り、第四章中第二十五条の次に次の一条を加える。
  (原子力規制委員会への通知等)
 第二十六条 委員会は、第二条各号に掲げる事項のうち、原子力利用における安全の確保に関係がある事項について企画し、又は審議したときは、その旨及び内容を原子力規制委員会に通知しなければならない。
 2 委員会は、第二条各号に掲げる事項のうち、原子力利用における安全の確保に関係がある事項について決定しようとするときは、あらかじめ、原子力規制委員会の意見を聴かなければならない。
  第二十七条中「原子力委員会及び原子力安全委員会」を「委員会」に改める。
原子力安全委員会に変わって作られる原子力規制委員会は、原子力基本法によって法的に定義されるから、原子力委員会の設立のためには、原子力基本法の条文の中で「原子力安全委員会」の定義の削除と「原子力規制委員会」の定義を行わなければいけません。
これは、当然の作業です。

これに関連する事項は、上記の附則十二条中の小文字の部分です。
本来、今回の原子力規制委員会の設置には、この部分だけの変更で必要充分なのです。
では、残りの上記附則十二条の中の太字の部分は、なぜあるのかが問題です。

この部分によって変更されるのは、原子力基本法第一条と第二条です。
変更前後で、どうなるでしょうか?

【改正前】
第一章 総則
(目的)
第一条  この法律は、原子力の研究、開発及び利用を推進することによつて、将来におけるエネルギー資源を確保し、学術の進歩と産業の振興とを図り、もつて人類社会の福祉と国民生活の水準向上とに寄与することを目的とする。
(基本方針)
第二条  原子力の研究、開発及び利用は、平和の目的に限り、安全の確保を旨として、民主的な運営の下に、自主的にこれを行うものとし、その成果を公開し、進んで国際協力に資するものとする。

【改正後】
第一章 総則
(目的)
第一条  この法律は、原子力の研究、開発及び利用(以下「原子力利用」という。)を推進することによつて、将来におけるエネルギー資源を確保し、学術の進歩と産業の振興とを図り、もつて人類社会の福祉と国民生活の水準向上とに寄与することを目的とする。
(基本方針)
第二条  原子力利用は、平和の目的に限り、安全の確保を旨として、民主的な運営の下に、自主的にこれを行うものとし、その成果を公開し、進んで国際協力に資するものとする。
2 前項の安全の確保については、確立された国際的な基準を踏まえ、国民の生命、健康及び財産の保護、環境の保全並びに我が国の安全保障に資することを目的として、行うものとする。

法律とは恐ろしいもので、ほんの僅かな文言の違いにより大きな影響を及ぼします。
特に、第二条は原子力基本法の基本方針を表す部分なのです。
原子力の基本原則である「民主・自主・公開」の3原則を原子力政策に取り入れているのがこの第二条なのですが、「その成果を公開し」と言う文言によって、成果以前の検討・研究経過の部分の公開義務が削除されてしまっています。
これが、原子力ムラの隠蔽体質を醸成してきたとも言えるでしょう。

この事を踏まえて、改正部分を見てみます。
原子力の研究、開発及び利用(以下「原子力利用」という。)
この部分は、言葉の言い換えだけで特に問題はありません。
問題となるのは、今回付け加えられた第2項の部分です。
2 前項の安全の確保については、確立された国際的な基準を踏まえ、国民の生命、健康及び財産の保護、環境の保全並びに我が国の安全保障に資することを目的として、行うものとする。
「安全の確保を旨として」の部分は、1974年9月1日に発生した原子力船「むつ」の放射線漏れ事故に際して、原子力安全委員会の設置とともに挿入された文言なのは、前回のエントリーで記しました。
今回の改正により、この「安全の確保」の補足説明を行っています。
では、何をもって「安全の確保」を行おうと言うのでしょうか?
文を分かりやすくするために、改行と字下げをします。
前項の安全の確保については、
 確立された国際的な基準を踏まえ
  国民の生命健康及び財産の保護
  環境の保全並びに
  我が国の安全保障に資すること
を目的として、
行うものとする。
ここで気になるのが、上記の太字の部分です。
「確立された国際的な基準を踏まえ」と「我が国の安全保障に資する」この2つの文言については、どこにも全く定義されていません。
つまり、この2つの文言は、それを運用する人の都合の良いように解釈出来ると言う事です。ここに、大きな危険性が秘められています。

この事に関して、参議院の環境委員会でも質疑が行われています。
2:11:00 ころに共産党 市田忠義 参議院議員から「我が国の安全保障に資する事」に関して問いただされています。
それに対して、細野環境大臣(原発事故の収束及び再発防止担当、内閣府特命担当大臣(原子力行政)兼務)が、次の事を答弁しています。
・この文言は自民党案から取り入れた事。
・自民党からは「セーフガード」のためだと説明を受け、それならばと言う事で入れた事。
この事に関しては、新聞などでも問題にされています。
「原子力の憲法」こっそり変更 東京新聞 2012年6月21日 朝刊 予備

前回の投稿で述べたように、「全くと言えるほど」討論が行われる事をしなかったのにわざわざこの第2項を付け加えたのは、「セーフガードのためだけ」なのでしょうか?
そうであれば、このような文言は必要ないはずです。

この条文は、「安全の確保」の方法として次の事項を規定しているのです。
1)「確立された国際的な基準」を踏まえて、「国民の生命、健康及び財産の保護」を行う事。
2)「確立された国際的な基準」を踏まえて、「環境の保全」を行う事。
3)「確立された国際的な基準」を踏まえて、「我が国の安全保障に資する」事。


これらが日本の原子力政策の基本となる法律に追加される事は、とても大きな影響がある事を知らなければいけません。


1)「確立された国際的な基準」を踏まえて、「国民の生命、健康及び財産の保護」を行う事。
国民の生命、健康に関して現在大きな問題となっているのは、低線量被爆と内部被爆です。この事に関して、ICRP勧告以外は「確立された国際的な基準」として認められないとしたらどうなるでしょうか?


2)「確立された国際的な基準」を踏まえて、「環境の保全」を行う事。
 原子炉の運転、放射性廃棄物、廃炉の際の基準などがIAEA基準が全てに優先し、日本国の実情に即した基準を決められないとしたらどうなるでしょうか?


3)「確立された国際的な基準」を踏まえて、「我が国の安全保障に資する」事。
 「我が国の安全保障」に対して大きな問題となってくるのが、既に日本に75トンにもなるプルトニウムの備蓄です。
 日米原子力協定(1988年締結)により、日本はプルトニウムの保有と再処理が認められています。しかし、この協定の有効期限は30年であり、2018年には期限を迎えます。自動延長規定に関わらず、この期限に際して日本の現状(再処理工場・高速増殖炉の稼働状況から核燃料サイクルは実現不可能)を鑑みて国民的な議論が必要でしょう。
 また、この核燃料サイクルを進めている日本原子力研究開発機構(2005年に日本原子力研究所 (JAERI、略称:原研) と核燃料サイクル開発機構(JNC、略称:サイクル機構、旧動力炉・核燃料開発事業団 = 略称・動燃)を統合再編して設立)は、独立行政法人日本原子力研究開発機構法により規定されていますが、機構の目的を定めた第四条は原子力基本法第二条の基本方針に基づいています。

(機構の目的)
第四条 独立行政法人日本原子力研究開発機構(以下「機構」という。)は、原子力基本法第二条に規定する基本方針に基づき、原子力に関する基礎的研究及び応用の研究並びに核燃料サイクルを確立するための高速増殖炉及びこれに必要な核燃料物質の開発並びに核燃料物質の再処理に関する技術及び高レベル放射性廃棄物の処分等に関する技術の開発を総合的、計画的かつ効率的に行うとともに、これらの成果の普及等を行い、もって人類社会の福祉及び国民生活の水準向上に資する原子力の研究、開発及び利用の促進に寄与することを目的とする。
 原子力基本法第二条に「確立された国債基準」を踏まえて「我が国の安全保障に資する」と加える事によって、核燃料サイクルの存続を正当化することができる可能性があります。
自民党から出されたこの法案に関しては、以前指摘した記事の核燃料サイクルを保護するために情報を隠蔽したとされる人物が大きく関与しているとしか考えられません。
原子力規制庁の人事に危険な人物
http://mousou-meisou.blogspot.jp/2012/05/blog-post_30.html
経済産業大臣官房審議官(原子力安全規制改革担当) 安井 正也 (やすい まさや)報道によれば、安井審議官は、経産省原子力政策課長を務めていた04年4月、使用済み核燃料を再処理せず、そのまま捨てる「直接処分」のコスト試算の隠蔽を部下に指示しました。

原子力基本法は、原子力政策を左右する法律です。
なんとしてでも、今回の改悪を排除し、さらに福島原発事故を踏まえた原子力基本法に作り替えましょう。


【改正私案】
第一章 総則
(目的)
第一条  この法律は、原子力の研究、開発及び利用(以下「原子力利用」という。)に際して現在及び将来における国民の健康と安全を確保し、学術の進歩と産業の振興だけに捉われず、もつて人類社会の福祉と国民生活の水準向上とに寄与することを目的とする。
(基本方針)
第二条  原子力利用は、平和の目的に限り、安全の確保を旨として、民主的な運営の下に、自主的にこれを行うものとし、その経過及び成果を公開し、進んで国際協力に資するものとする。
2 前項の安全の確保については、最新の国際的知見を踏まえ、国民の生命、健康及び財産の保護、環境の保全並びに国民の安全に資することを目的として、行うものとする。

改正私案に関しては、法律的に全くの素人ですのでいくらでも良い案をご提示ください。